部下の離職を止めない上司の話

数千人の採用と離職対応をしてわかったこと

先に600人の人事を統括していたと書きました。けれどそれは最終的な数で、最初は40人位の組織でした。そこから怒涛の採用で結果的に5年前後で600人を超える規模にまで成長させることができました。当然採用人数は600−40ではなく、その間に離職した人間も多数います。つまり入れ替わった人間も多数いるということになります。
そういった方々を思い返して計算すると、おそらく数千人。その経験の中で自分なりに学んだこと、わかったことも当然あります。
 

離職を申し出ている時点で基本こちらの負け

勝ち負けで語るものではありませんが、働いている人がやりがいをもって楽しく仕事に取り組んでいれば、特定の事情を除き、離職を申し出ることは無いはずです。その意味で、離職を申し出ている時点で会社側の負け。豊かな就業体験を提供できなかったと考えるほうが得策だと学びました。
その人材も一旦口に出せば、もう取り返しがつかないことなどわかっているはず。ということはそれがわかった上で辞めたいと言っているわけで、今さら言っても仕方がないというところからスタートなわけです。
まずはここの認識をキチンと持つことが重要だと学びました。
 

だけど、まだまだ取り戻せる可能性もある

基本的には負けですが、それでも取り返せる可能性は多くあります。もちろんそもそも社員が辞めたいと言わないような、ずっと働きたいと思うような会社づくりをするべきです。それはそれとして、今目の前の辞めたいと言っている社員が、有能で期待をしていた人物であればあるほど引き止めたいと思うのは当然ですよね。
まだ間に合うかもしれません。実際私は本当に残ってほしいと思う人材ほどキチンと引き止めることが出来るようになっていきました。
 

アナタ次第でチャンスに変わるかも知れない

さらにもしかしたら、その方の一件で会社を更に良い状態に変えていけるかもしれません。それまで見えていなかった会社の悪い点が見えてくる、とか。優秀な人材の中に貯まっていたストレスを解消することでより一層高い成果を上げるようになってくれた、とか。組織の一体感が高まったなどという経験もさせてもらいました。
どうせなら、離職・退職阻止といった後ろ向きな仕事と捉えるより、会社をよくする仕事という前向きに捉えてみてはどうでしょう。アナタがそう考えることで大きく好転する可能性があるのです。
 

離職・退職阻止は心構え8割

私の本音として、離職・退職を阻止できるかどうか(それがいいかどうかは別として)は話を聞いてあげるアナタの心構えでほぼ決まると思っています。これは確信に近くて、面接をする人間がどのような心理でどのような覚悟で望むかで結果は大きく変わってきます。
簡単に言うと
 

  • やめたいという人材のせいにする
  • どうせもう引き止めるのはムリ
  • 面倒くさい
  • なんとかうまく言いくるめてやろう

 
こんなメンタリティでは人材を引き止めることはムリだと思います。面接される側の気持ちになってみると、「どうせ引き止められる」ということはわかっているわけです。わかった上でどう切り抜けるか、自分の考えをどう通すかを考えてその場に望んでいるわけです。
つまり採用面接と違って、離職・退職の面談は上司の方が見られているんです。当然こんなこと考えていたら見透かされます。もしこれまでこのような考え方で、社員との面談に臨んでいたのなら、ここで改めましょう。
 

離職・退職したいという社員がでるのは会社の問題

改めた上で正しい考え方をインストールです。まずこちら辞めたいという社員が出てくることは会社の問題と捉えましょう。なにも皆さんの会社がブラックだとか、現実的ではない給与を支払うべきだなどと言っているわけではありません。
ただ議論の焦点を人材の方に持っていくと、面談の場は前向きな方向性には絶対になりません。「社員に夢を見せられなかった」「成長の機会を提供できなかった」「社員間の人間関係改善に協力できなかった」なんでもいいので、会社に改善する余地があったはずだと考えましょう。
 

面談は始まる前が勝負だと考える

さらに、面談が始まる前が勝負。始まる前にもう決着は付いている。ぐらいに考えて人材の気持ちに感情移入することが重要です。直接の部下でなければ、事情を知っている同僚などキチンとヒアリングをする。事前にわかっている退職理由が妥当なものなのか、確認する。そもそもどんな感じで面談がスタートするのか、シュミレーションをしてみるなど、事前に行えることは多数あります。
どれだけ備えた状態で面談に臨めるかがその後の流れを決めるわけです。なのでココが重要だと考えてみて下さい。
 

面談がはじまったら、この人のためになにが最善かを考える

面談までは情報収集とシュミレーションを徹底しましょう。そこがほとんどの場合成否を分けると書いたことは間違っていないと思います。
ただし、面談が始まったら眼の前にいる人材のためになにが出来るのかを考えましょう。
辞めるのが本当にいいのか、それとも残るべきなのか。おそらくその人材以上に豊富な経験をアナタはお持ちだと思います。だからこそわかるはず。
このまま辞めたら後悔するかどうか。
相手を思って考えてくれているかどうかはココでわかります。自分の保身のために離職を防ごうとしているのか、本気で自分の事を考えてくれているのか、相手はわかっています。
そしてそれがわかっているからこそ、「本当に自分のことを考えてくれている」と理解したら自分の判断をもう一度冷静に考える可能性が広がっていくのです。つまり心を開いてくれます。
ココが最大のポイントかもしれません。これを自分の中で強く思って面談してみて下さい。おそらくそれまでの離職阻止の面談とは違った雰囲気になるはずです。
 

幸せになる離職阻止の進め方

では具体的にどのように面談を進めればいいのでしょうか。もちろん千差万別なので、正解はありません。しかし後ろ向きな話になりがちな退職のための面談が前向きな話になる進め方というのはあります。
具体的にはこのようなものです。

  1. 離職・退職を止めないと宣言する
  2. 面談者(アナタ)の想いとして幸せになって欲しいと伝える
  3. だからこそ一緒に考える場・時間にしたいと伝える
  4. 結果離職になったら自分は止めないと改めて説明
  5. 離職・退職を考えた経緯を説明してもらう

離職を止めないなんて宣言を最初にしたら、安心して辞めていくんじゃないか?という意見を頂いたことがあります。しかしよく考えてみて下さい。そもそも負け試合です。普通に対応していて、退職したいと心を決めた状態で面談して、それをひっくり返せる確率ってどれくらいですか?30%?20%?10%?辞めたいと言われたらまずひっくり返せないという会社も多くあるのではないでしょうか。
そのような状況です。どうせですから思い切って相手の気持ちになって相談にのってあげて下さい。そうすればきっと結果は変わります。私の経験上、このような形で相手との信頼関係をキチンと築くことができれば、60%以上の確率でもう一度頑張ってみると言ってくれると思います。
ここでのポイントは理由を聞くのは最後ということです。理由を聞いてしまうと、一歩進んでしまいます。
実は離職・退職をしようと考えている社員のほとんどは迷っています。決断はしたもののそれが本当にいいかどうかなど誰もわかりません。そのような状況にいる人材に対して、「何故辞めたいなんていうんだ」なんて聞いたら、人材の中にある曖昧な退職理由がドンドン形になっていってしまいます。
あくまでも心を開いて相談をしてくれるくらいの信頼関係を作った上で、離職しようというところまで思いつめることになった経緯を聞きましょう。
そうすると、人間関係なのか、仕事上のトラブルなのか、会社に対する不満の蓄積なのか、時系列で語ってくれます。この時系列で語ってくれている時点で、退職という瀬戸際から一歩二歩後退(嬉しい!)しているわけです。
で、経緯・時系列で語ってくれればこちらも対応できます。
人間関係なら間に入ることも出来るし、仕事のトラブルなら根回しもできますよね。ビジョンや会社の方向性といった大きなことに関しては、変えることはできないかもしれませんが、アナタなりの視点を伝えることはできます。
要するにココまでの関係性と流れになれば、打てる手が大幅に増えるんですね。実は多くの企業で離職・退職希望が出た時点でお手上げになるのは、社員側と会社側とで信頼関係が損なわれているからなんです。
だからこそこの順番で相手の立場に立つことを約束し、相手にとってこの離職・退職が良いものなのかどうかを一緒に考えたいと伝えることが大切なんです。

結局、離職は止めずに話を聞くにつきる

このような形で離職を宣告し、最終決定になるであろう面談を、これまでの経緯を再検証し、可能性を見出す面談にしてみるというのが私が提案したいことです。
正直に言えば、辞めたいといった人材にとって(ここが難しいところですが)本当に辞めたほうが幸せになれるのか、残った方が幸せになれるのかなんて誰にもわかりませんし、誰にも言えないと思います。
にも関わらず安易に離職を止めようとする人事の人間も多いですし、感情的に離職する人間も多いのが実際のところだと思います。しかしそういったことから発生するミスマッチや人材の流出は、結局会社の維持コストに跳ね返ってきて、会社の足腰を弱くします。
ここまで書いた離職に対する対応は短期的なものですが、会社の屋台骨にあたる優秀な人材にはキチンと話しをして、より良い道を選べるように整理をし、同時進行で出来るだけ速やかにミスマッチが起こらない、人材が長くやりがいをもって続く会社づくりが必要、という当たり前だけど難しい結論になるわけです。
少しでもこれらの話しからヒントを得て頂けるとうれしいです。]]>